個人的評価★★★★★
中東情勢は、正直複雑すぎて良く分からないなあ~。と思っているときに『中東大混迷を解く』シリーズとして発刊されていることを知り、購入した本
第2弾で『シーア派とスンニ派』があり、以降も続刊予定らしい。
著者は、東大の先端科学技術研究センターの教授で、先端研・創発戦略研究ラボ(ROLES)の代表。
複雑な事柄は、全体を見ていると分からなくなる場合もあり、いくつか分解したうえで理解してくという方法もある。
そういった意味で、本書も現在の中東情勢を知るための一助になること間違いない。
サイクス=ピコ協定ってなに?
そもそも、僕は世界史でそういやそんな協定あったような気がするな~くらいで、内容とか全く覚えていなかったりするが、そこは冒頭で丁寧に解説してくれている。
1916年5月16日、イギリスとフランスの間でサイクス=ピコ協定が結ばれた。これにロシアも同意して、西洋列強がオスマン帝国の支配領域を第一次世界大戦の後に分割する取り決めが結ばれた。
サイクス=ピコ協定は、現在のトルコ南東部と、シリアやイラク、パレスチナやヨルダンなどにかけての一帯を切り離し、英・仏の直接統治・支配圏に分けた。P13
イギリス・フランス・ロシア・・・またお前らか!(笑
物凄く大雑把な理解としていうと、現在までの諸国家と国際秩序を作る基礎になった協定ということ。
そして、
サイクス=ピコ協定協定ほど、批判と罵りの対象となった外交文書も珍しいだろう。
そもそもここまで一般に名前が知られている外交文書というものも、少ないだろう。
~中略~そこから『サイクス=ピコ協定こそ中東問題の元凶』といった決まり文句が、一般向け解説でも、あるいは中東専門家が政治的な発言を行う時にも、しばしば見られるようになった。P16
だけど、サイクス=ピコ協定を諸悪の根源として問題は解決するの?じゃあなくせば良いの?現代と100年前の類似と相違はどこにある?
サイクス=ピコ協定というマジックワードを使って分かった気になるのは危険じゃないか?
といった感じの視点で解いていく本
その論旨の展開は明快で、サイクス=ピコ協定以外に重要な条約とその意義や、現在と百年前の異同を絡めつつ単純でない新しい視点を提供してくれるように思う。
クルド民族ってトルコだけじゃないのね
最近ネットで何かと話題のクルド人。
僕の浅薄な理解だと、トルコ政府反対勢力で難民的な存在といった印象だけど、実際はそんな単純な問題ではない。
クルド人自体、サイクス=ピコ協定以後のセーヴル条約やローザンヌ条約に翻弄された民族であり、クルド系の諸組織はトルコだけでなくシリアやイラクにもあり、また、2016年にはシリア北部に自治政府の設立を宣言している。
諸組織の中でも争いがあり、もはや訳が分からない。そこにさらに大国の思惑も絡んでくるから余計に複雑になっていく
複雑なものを複雑なものとして捉える大切さ
そのほか、アルメニア人虐殺問題や、西欧の難民問題など、現在の諸相は相変わらず複雑だなあという感想である。
しかし、物事を理解するに当たっては、単純化した説明というのも一助になるけれど、しっかりと考えていくならば、複雑なものを複雑ものとして受け入れ、自己の知識と理解を深めていくことも大切ではなかろうか。
分かりやすく、薄めのブックレットであるけれど、そんな印象を持たせてくれる良書でした。
続刊も購入し読みたいところ