個人的評価★★★★☆
あのとき自分がどうにかして彼を止めていれば、あんなことにはならなかったのではないかと思う瞬間がある。
同時に、あのとき自分が彼を止めなかったから、彼はあれからも生き延びられているのではないかと思う瞬間もある。
ーあんたが散々言ってた繋がりってやつが、やっと俺にもできそうなんだ。
P498
不登校の息子を抱える検事(なお、息子はゆた〇んに影響されてyoutuberになろうとする)、大型ショッピングモール内にあるエア〇ィーヴ的なショップで働く女性、食品会社で働く大学生、引きこもりの兄がいる女子大生八重子、その女子大生と同じ大学に通う男子大学生大也(ダンス部:イケメン)達の話を通して、欲望に対する問題が描かれていく感じの小説。
共通しているのは、少し前まで『正しい』・『常識的』とされていることから、程度の差はあれ外れてしまった人たちというところかなあという感じで読んでいた。
デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』からそうだけれど、この作家さんは、正当性からの疎外を描き出すのがうまいなあと思う。
今作も、社会的つながりや、社会常識が解体されていくなかで、正しさから外れている人たちはどうしたら良いのかという問題提起になっているようにも思える。
また、最近のLGBTQへの問題提起になっているようにも思えるし、理解促進になっているようにも思える。
マイノリティとマジョリティの間にある疎外を描いているようで、かといってマイノリティを肯定するわけでもなく、読者に考える余地を与えさせる。
『桐島、部活やめるってよ』との違いは、割と直接的な記述によって問題を浮き彫りにしていっているところか(そして、それによって読んでいる側も理解した気になりやすい)
正しさや疎外について読む人それぞれが、それぞれの視点で読むことができ、なおかつ、小説の中では結局何も解決するわけではなく、そのままこちらに放り投げてくるのが素晴らしい✨
読んで楽しい!すっきりな小説も娯楽としては良い(半沢直樹シリーズとか現代の水戸黄門的だよね)けれども、こういった、娯楽と懐疑の視点の提供を兼ねた小説も、まさしく文学という感じでとても良いなあと思いながら読了しました。
しかし、千恵子は大也とぶつかり合って、下みたいな会話して送り出したあとに、大也が児童ポルノで捕まったの聞いてびっくりしただろうなと思う(実際は児童ポルノではないんだけどまあそのあたりは小説の中核ともかかわるので割愛)
『もう、優芽さんに言われたからとか好意があるからとか関係ない。私は私と考え方の違うあなたともっと話したい。全然違う頭の中の自由をお互いに守るために、もっと繋がって、もっと一緒に考えたい。私いま、本当に心からそう思ってる』P459
GWあたりにゆっくり考えながら読むのにおススメかなと思います。✨