個人的評価★★★★★
著者は、2002年に、不確実な状況下における意思決定モデル『プロスペクト理論』を経済学に統合した業績が評価され、心理学者であるがノーベル経済学を受賞している。
いわゆる行動経済学の草分け的な存在のようである。
本書のタイトルであるファスト&スローは、『速い思考=ファスト=直観的思考』と『遅い思考=スロー=熟慮的思考』が人間が判断を行う際の基礎にあり、それは素晴らしいシステムだけれどもバイアスや、判断ミスを引き起こす素にもなるというような感じのもの。
直観的解決の探索は自動的に行われるが、ときに失敗し、専門的スキルによる解決もヒューリスティック(意思決定の場面において、緻密な論理で一つ一つ確認しながら判断するのではなく、経験則や先入観に基づく 直感で素早く判断すること)な解決も浮かんでこないときがある。
そういった場合は、時間をかけて頭を使う熟慮思考=システム2へとスイッチを切り替える。
もっとも、経験からまなんだこと(熟慮思考)よりも直観的思考(速い思考)=システム1のほうが影響力は強く、多くの選択や判断の背後には速い思考があるということになるという考え方っぽい。
直観的思考に当たっては、人間は合理的存在ではなくて状況や感情、先立って与えられた情報(先入観)などに大きく左右されるというようなことが記述されている。
理屈の詳細は序章で結構詳しく説明されたうえで、各システムの実験とその結果等に記載されて行くので、読みやすいし、そういう結果になるんだ~と思いながら読めて結構楽しいw
また、自分達の能力だと思っているもの(経営判断能力や、投資などの判断能力など)は、実は一般人と大きな違いがあるものではなく、多くが偶然や運に拠っており、『たまたま』上手くいっただけということを立証したりしていて面白い。
ある意味では経済学や経営学自体へのアンチテーゼのようなものにも思えるが、人間(特に成功者)は、自分が成し遂げたものが自分の能力によるものだと信じたいものであり、行動経済学が出来たとしても主流にはならないだろうし、論理的に証明されたとしても認めないだろうなあとも思いながら読んでいた。
恵まれた側は、面白い理論だと思いながらも自己に当てはめられることは否定するだろうし、恵まれていない側は資本の論理に対する反対論拠の一つにするのだろう
以下、個人的に特に面白いな~と思ったものをいくつか
イデオモーター効果(観念によって行動が変わる効果)
学生たちは、部屋の中を毎分30歩のペースで5分間歩くように指示される。
このペースは、通常の歩く速度の3分の1である。
その後に問題を出されると、彼らは『忘れっぽい』『年老いた』『孤独』など高齢者に関連する単語を通常よりはるかに素早く認識するようになった。
~中略~
すなわち、高齢というプライムを受けると、老人らしく行動する。
逆に老人らしく行動すると、高齢という観念が強められる。 P100
平均への回帰
(ビジョナリー・カンパニーという、優良企業と劣後企業についての分析についての本を説明したあと)
運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップやクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。
たとえCEOがすばらしいビジョンとたぐいまれな能力を持っているとあなたがあらかじめ知っていたとしても、その会社が高業績を挙げられるかどうかは、コイン投げ以上の確率で予測することができないのである。 P3644
他にも、面白い効果理論や実験がモリモリ載っているので、GWや夏休みの長期休暇の期間にゆっくり読むのにおススメです✨