ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

80冊目『ローマ人の物語17 悪名高き皇帝たち(1)』塩野七生

文庫版ローマ人の物語の第17巻

アウグストゥス亡き後、第2代皇帝ティベリウスの治世~ネロまでを描く単行本版ローマ人の物語Ⅶ(悪名高き皇帝たち)を4分冊にした1冊目

 

 

『FATA REGUNT ORBEM!CERTA STANT OMNIA LEGE(不確かなことは、運命の支配する領域。確かなことは、法という人間の技の管轄』

ラテン語の格言 P213より

ティベリウスの性格を表すことばとして載せられているけれど、今巻を読んでいるとまさしく責任を重視し、地味なことを実直に行うティベリウスの性質が浮かんでくるような感じがする。

もともと、カエサルが構想して、アウグストゥスが実現した帝政ローマを、ティベリウスが苦労しながらアウグストゥス後期に出てきた綻びを丁寧に補修し、確立していく様が見られる巻になっているように思う。

帝政といっても、2代目ティベリウスあたりだとまだ元老院の影響も大きくて、重要な法案通すには元老院の承認が必要だったりと、イメージしてた皇帝像とはだいぶ違った感があって面白い

それにしても、と考えてしまう。皇帝に就任するにも元老院の承認が必要であるだけでなく、皇帝の後継者選びにも元老院の承認がないと実現不可、皇帝勅令でさえも暫定措置法でしかなく、恒久的な政策にしたいと思えば、これまた元老院の議決を必要とし、それがなければ法制化も不可というのが、アウグストゥスの創設したローマの帝政であった。ローマの皇帝とは、志那の皇帝を思い起こしていては理解不能な存在なのである。P194

後継者と見立てていたゲルマニクスが死亡し、ゲルマニクスの妻アグリッピーナは増長して不穏分子と化し、その後後継者と見立てたドゥルーススティベリウスの息子)も死亡し、元老院は自分たちに楽な統治部分だけを享受し苦労の多い部分は議論や引き受けをしたがらない。

といった感じで老年になっても隠居できず、一人孤独に責任を負い、それでも元老院やローマ人に期待を持ちながらも期待を裏切られ、どんどん人間嫌いになっていくティベリウスが描かれていて読んでいてなかなか切ない気持ちと、それでも自身の責任から逃げることなく、人気が得られなくても必要な仕事をきっちりしていくティベリウスへの尊敬の念が湧いてくる巻でもあるなあという・・・

 

ティベリウス(68歳)はもうホントに疲れたのか、首都ローマを離れ、ナポリ湾に浮かぶ小島カプリ(の別荘)に引っ込むことになることで今巻が終了

次巻はおそらく別荘からの執務と、死亡まで、次の皇帝カリグラが描かれる模様。

塩野七生女史のローマ人の物語は、学者に言わせると学問的に問題などもあるのかもしれないけれど、そもそもこれは小説でもあるし、塩野七生が捉えたローマ人の物語として読み、無味乾燥な人物や時代描写ではなくて肉感を持った登場人物たちを読めるのが面白い要素の一つだと思う。