幽霊奇譚 ドイツ・ロマン派幻想短編集
個人的評価★★★★★
1 どんな短編集?
ナポレオン時代にドイツで話題なった幽霊の書全5巻(1810〜1815年)に、そのフランス語訳ファンタスマゴリアーナ収録の作品を反映した構成のアンソロジー
全15作品収録。訳者解説が充実していて、ドイツのロマン派幻想文学史みたくもなっている。
ファンタズマゴリアーナは、メアリシェリー(フランケンシュタイン)やポリドリ(吸血鬼)らがスイスのレマン湖の別荘に集まった際に読まれ、著作を書くきっかけになった本として有名
収録作は
『魔弾の射手』ヨハン・アウグスト・アーベル
『先祖の肖像画』ヨハン・アウグスト・アーベル
『髑髏』フリードリヒ・ラウン
『死の花嫁』フリードリヒ・ラウン
『幽冥界との交感』フリードリヒ・ラウン
『亡き夫の霊』フリードリヒ・ラウン
『灰色の客間』ハインリヒ・クラウレン
『黒の小部屋』ヨハン・アウグスト・アーベル
『灰色の客間【続】』ハインリヒ・クラウレン
『理想』フリードリヒ・ラウン
『花嫁の宝飾』ヨハン・アウグスト・アーベル
『逸話三篇 幽霊の城、霊の呼ぶ声、死の舞踏』ヨハン・アウグスト・アーベル
『クララ・モンゴメリー』ヨハン・アウグスト・アーベル
また、箱入り本で装丁も綺麗で中身読まずに棚に飾って見てるだけでも楽しい本
ただ、お値段が結構する(税込6,380円)ので、実物みてみるのが良い。
2 大雑把な感想
幽霊綺譚というくらいだから、怪奇幻想文学に多い、バットエンドの作品が中心かなと思いきや意外にグッドエンドが多くてびっくりした。
恐怖描写も、この時代はまだ割と直接的なものが多くてわかりやすい。(19世紀後半の英国ゴシック以降は、曖昧な恐怖が増えてくる印象。)
15作品中9作くらいは読後感が良い感じである。場合によってはネット小説でいう異世界恋愛ざまぁ物みたいな話もあって、時代は違えど同じような需要あるんだなぁと感心しながら読んでいた。
「わずかな例外を除いて、幽霊を信じる者などいないし、先に述べた恐怖にしても、みな人間にとって当然な闇への不安、人間には説明できぬ不安が原因だということを、証明された真実として受け入れても、ひとつたしかなことがある。
すなわち、幽霊や精霊、夜中をさまよう亡霊の話ぬは人気がある。私たちは摩訶不思議なことがなにぶん大好きなのである」P391フランス語版序文
「幽霊どもが退散したからこそ、幽霊物語の真の時代がはじまる。どの物語にも裏の現実があるなら、読者はそれを読んで、運がよければ、裏に隠された真相に辿り着くのさ!」P291黒の小部屋
この時代にすでに迷信などからの脱却が見られるのは興味深いが、これらの文章が本書の特徴としてあると思う。