『私が古本の中でも特に好きなのは、前に持っていた方が一番愛読なさったページのところが自然にパラっと開くような本なのです。』P21
個人的評価★★★★★(同名の映画と併せて読むべし)
どんな内容の本なの?
ニューヨークの女性脚本家(へレーン・ハフ)とロンドンの古書店に勤める男性との間の書簡集
その期間は、第二次世界大戦後間もない1949年から1969年までの20年に渡る。
ニューヨークの古書店では、イギリスの(状態の良い)古書が全く手に入らないか非常に高い!
そんな中、雑誌に記載されていた、ロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マークス社の広告をみて書籍の注文の手紙を送ったのが書簡が始まるきっかけ。
注文の書簡集だから無味乾燥なのかと思いきやそんなことはない。
大体、書簡集とはローマ時代のキケロ書簡集から面白いものと相場は決まっているのである(決まってないw)
読んで(+映画を観て)の感想
注文の手紙のやり取りはやがて親しみに満ちたものになる
ユーモアの混じった書籍の注文や送付のやり取りは、やがてお互いの書物への愛着と、文通に似た友情を育む。それは個人間のみならず、他のお店のスタッフや家族も巻き込んだものとなっていく。
最初の方は、とんでもねえクレーマー婆だなと一瞬思ったがそんなことはない(笑)
当時のイギリスの窮乏に比してアメリカの繁栄が対比的に見られたり、へレーンが無名の脚本家から有名脚本家に成長していくことを一緒に疑似追体験できる。
ずっとイギリスに会いに行こうとしていて(へレーンの友人たちはイギリス旅行してマークス社に寄ったりしている)、けれども忙しくて中々行けないうちに20年近くが経つ。
それでも、このまま心地よい関係性の日常が続くように見えたが、急遽起こった展開は悲劇的でもあるし、人生の悲哀が現わされていると思う。
病気になった身としては、やはり会えるときに会いたい人に逢い、動けるときに行きたいところに行くということの大切さを感じる作品でもあった。
古本屋に行きてえ
今は、アマゾンで本(古本含む)を簡単に注文できちゃうし、海外の本も比較的簡単に手に入って、届くまでのドキドキとかを感じることはあまりない。
また、街の古書店はブックオフに軒並み取って変わられ、そのブックオフも近年では本のスペースは年々減少し、古書や、古書まで行かないちょっと古い(10年以上前とかの)本もあまり陳列しなくなっている。
大都市圏に住んでいれば、東京の神保町などのように古本を手に取る機会は出掛ければ作れるのだろうけど、地方だとなかなかそうもいかない。
そんなわけで地方住みとしては、
『あ~、古書店とか古本市行きたいな~』と思わせてくれる本でもある。
映画が書籍の世界観を綺麗に補完している
本書を原作とした映画が1989年に公開されているが、これがまたしっかり原作をリスペクトしたうえで、書簡では見えにくかったその当時の世相やそれぞれの生活などをうまく補完し、素晴らしい出来栄えの映画となっている。
所々に入る、手紙の内容を画面に向かって話しかけることによって直接会話しているように見せる描写は象徴的であり示唆的であり、映画だからできる描写ですごく好き。
小説原作の洋画は、原作の世界観をしっかりと表現しているもの多くて、本好きとしては大変好感がもてるのである。
俳優さん、なんか見たことある人出てるなと思ったらアンソニー・ホプキンス(羊達の沈黙のレクター博士)出てるのね。
映画を先に観ても良いし、本を読んでから映画を観ても良い。どちらでも楽しめます。
映画はネットフリックスだと無料で、Amazonプライムだと400円くらいで見られるみたい。
僕はAmazonプライムで見ました。
その後、へレーン・ハンフがイギリスに行った40日間の書籍も出ているけど絶版みたい。ただ、この書簡集はこれで完結しているので、続編は蛇足にもなりかねず、中古で買うか悩むところ。