個人的評価★★★★★
十代は、おなかいっぱい食べることが仕合せであった。
二十代は、ステーキとうなぎをおなかいっぱい食べたいと思っていた。
三十代は、フランス料理と中華料理にあこがれた。アルバイトにラジオやテレビの脚本を書くようになり、お小遣いのゆとりもでき、おいしいと言われる店へ足をはこぶこともできるようになった。
四十代に入ると、日本料理がおいしくなった。量よりも質。一皿でドカンとおどろかされるステーキより、すこしずつ幾皿もならぶ懐石料理に血道を上げた。
タイトル通り、向田邦子のベスト・エッセイ集
なんだけど、食べ物や食事に関するエッセイがめっちゃ多い(笑
エッセイ集って普段あまり読まないんだけどそういうものなのか!?
それとも向田邦子が食べ物や食事に関するエッセイが多いのだろうか
そして、食べ物への描写が丁寧で、場合によってはユーモアもふんだんに盛り込まれていて、たいへんご飯を食べたくなる(笑
個人的にすきな描写は下記の二つ。
日本に帰って、いちばん先に作ったものは、海苔弁である。
まずおいしいごはんを炊く。
十分に蒸らしてから、塗りのお弁当箱にふわりと三分の一ほど平らにつめる。かつお節を醬油でしめらせたものを、うすく敷き、その上に火取って八枚切りにした海苔をのせる。これを三回くりかえしいちばん上に、蓋にくっつかないよう、ごはん粒をひとならべするようにほんの少し、ごはんをのせてから、蓋をして、五分ほど蒸らしていただく。
もったいぶって手順を書くのがきまりが悪いほど単純なものだが、私はそれに、肉のしょうが煮と塩焼き卵をつけるのが好きだ
P135『食らわんか』
水羊羹は、ふたつ食べるものではありません。口あたりがいいものですから、つい手がのびかけますが、歯を食いしばって、一度にひとつでがまんしなくてはいけないのです。~中略~
心を静めて、香りの高い新茶を丁寧に入れます。私は水羊羹になると白磁のそばちょくに、京根来の茶托を出します。~略~
水羊羹と羊羹の区別がつかない男の子には、水羊羹を食べさせてはいけません。そういう野郎には、パチンコ屋の景品棚にならんでいる、外箱だけは大きいけど、ボール紙で着ぶくれて、中身は細くて小さいいやにテカテカ光った、安ものの羊羹をあてがって置けばいいのです。 P112~P113『水羊羹』
ほかにも戦争経験世代だからか、戦争含めた実体験や成人してからのエッセイなどおもしろいエッセイがたくさんある。
ちょい読みにも向いているしおススメです。