ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

64冊目『舟を編む(文庫版)』三浦しをん

やっと退院できた~。入院中はだるくて一日18時間は寝ているのでまだ頭が回らない・・・

入院中そこそこの量読んだので、しばらくは脳内整理兼ねて入院中に読んだ本の感想になる予定。

 

個人的評価★★★☆☆

 

これって10年以上前の作品だけど、なんで書店で平積みされてるんだろ?と思ったらドラマが放送されてるのね。懐かしいなあ。どんな内容の本だったっけ?と思って購入した一冊。ガイアの夜明け(テレビ番組)の残滓を感じる・・・

『辞書は、言葉の海を渡る舟だ。』

『人は、辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原を前にたたずむほかないだろう』

大渡海編纂にあたって。P34~35抜粋

 

全ては辞書編纂のために

出版社の営業部員である馬締光也が、大渡海という新しい辞書を編纂する辞書編集部に引き抜かれ物語は始まる。

馬締は、明らかに営業部員としては不適格(というか会社員に向きにくい)なのだけれど、知識の幅、整理整頓や性格の気質などが辞書編纂に向いているとされ引き抜かれる。

辞書編纂は、実はかなり専門的(プロフェッショナル)な素質を要するものであり、まさしく適材適所といった人材抜擢がされるのである。

それもこれも、すべては大渡海完成のため!ここから完成までに10年以上にわたる物語が始まるのであります。

プロフェッショナル(あるいは情熱を持った仕事)の美しさ

馬締は、私生活でも数部屋を本で埋め尽くすようなある意味読書狂に近い感覚があるうえ、言葉の細やかな違いや変化に気が付き、収集していく辞書編纂向きの性質を持っている。

そのうえ、世間的な意味での要領があまり良くなく、うそや冗談を言わない(言えない)性格で黙々と仕事に励んでいく。

他の、辞書編纂部員や、協力者である元大学教授も同じような気質を持った人達が多く、まさしくプロフェッショナル的に仕事をしていくのである。

辞書編纂部員で唯一、馬締の先輩は要領が良く、営業や企画広報向きの性格をしていて、仕事に熱量を持てない(100%以上の熱量をもって仕事をするのは難しい)自分に悩んだりするが、自己の異動と併せて折り合いをつけていったりしている。

プロフェッショナル的な働き方については、やはり熱中して物事に真剣に取り組む美しさはあると思うし、そういったものはとても上手く描写されていて、完成までのハプニング等と併せて楽しく読める。

恋愛要素もあるけれど

恋愛要素も作中にはあるけれど、これは恋愛メインというよりは、主人公たちの時間(ライフステージ)の変化と変わらず存在する辞書の編纂という事象を対比させるために挿入している感があって、個人的にはあってもなくても良い描写だった(これは、馬締が引き抜かれてから辞書編纂部に新しい人員が配置される話も同じ)

プロフェッショナル礼賛的思考の残滓と危険性

辞書編纂は研究職や学者、文筆家、自営業者や、いわゆる専門職等と同じく、プロフェッショナル的な領域であり、その働き方や仕事への情熱は素晴らしいものがある。

けれども、それはある程度特殊な領域であるから許容されていることなのでもあり、(本書にはそのような意図はないが)この働き方が普通の仕事にまで敷衍して考えるとブラック労働(やりがい搾取)を生み出す素因となり、危ないんじゃないかなあと思った次第。

たとえば、最後の方に、辞書に抜けが見つかり総点検を行うが、バイトを含めて休日返上泊込みで1カ月近く点検作業を行う(もちろん、残業代の説明とか労働時間との関係の説明はない。)ということは、情熱的に仕事を行うに当たっては美談だけれども、それを美談として物語ってしまうのは難しいところがある。

丁度、本書の単行本が出版された当時(2011年頃)は、テレビ番組であればガイアの夜明けが終わり、後継のプロフェッショナルが放送され、いわゆるブラック企業(やりがい搾取)が沢山あった時代だったように思う。

そんな中で、上記みたいな価値観は(僕含めて)割と普通の感覚だったので、当時は違和感持たなかったが、現在になって改めて読むと、出版延期するとか人員増やすとか色々やりようあったんじゃねえかなあとか思いながら読んでしまうのでありました。その意味で、★3で(笑)