動物をテーマに購入した本だけど、かなり幻想文学よりで予想外に面白い短編集だった。
個人的評価★★★★★
看護師が出てゆくと、彼は15分ほど黙りこくっていた。たとえ事務的な手違いからにしろ、六つもの階が、六つものおぞましい障壁の重みが、コルテの頭上に容赦なくのしかかっている。この奈落の深淵から這い上がるには、いったい何年ーまさしく年単位で考える必要があったーいったい何年かかることだろう。『七階』より
概要
20世紀のイタリアの作家で、『幻想文学の鬼才』と称される(らしい)ディーノ・ブッツァーティの短編集
多作な作家だったらしく、色々な短編集から訳者がテーマを持って選別し、天地創造~この世の終わりまで全22編が収録されている。
一応、短編は年代順的な感じで並んでいるので、まさしく世界の始まりから終わりまでを作者の世界観に沿って読める短編集という印象です。
著者は1906年~1972年まで生きた方であり、やはり2度の世界大戦を経験した世代特有のペシミスティックな感覚と、人間や政治へのアイロニーが根底にあって読んでいて考えさせられることもできるし、物語としても面白いという中々素晴らしい作家だなあ~と思いながら読んでました。
日本でも人気らしいけど、寡聞にして知らず、良い作品と出会えて満足な一冊。
個人的に特に好きなのは『1980年の教訓』
地上の争いが絶えないことに愛想をつかした神様が、人間どもに戒めの教訓を与える話。
教訓というが、内容は、その時代の権力者が権力を持ってる順に死亡していくというもの。
最初にソ連の最高指導者が死亡し、自由主義陣営が安堵していたところ今度はアメリカ大統領が死亡する。という風に一週間毎にどんどん偉い人が死んでいくので、権力者は自分の地位を降り、弱者であることをアピールし、世界も平和に向かっていくという話でした。
冒頭引用した『七階』は、医者批判も含まれているらしいけど、病気で入退院を繰り返している身からするともはやホラーである(笑
なので入院中とかには読むのはおススメしないかな!?という感じでしたw