ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

68冊目『華麗なる一族 上』山崎豊子

 

 

個人的評価★★★★☆

 

山崎豊子の小説については、はるか昔、白い巨塔を読んだような記憶もあるが忘却の彼方であります。

X(旧Twitter)でフォローしてる方が本作『華麗なる一族』を読了されておススメされていたので影響を受けて読み始めた次第✨

 

ふ、不穏な空気が序盤から漂っている・・・

さて、文庫の裏のあらすじをみて、銀行の合併に伴うオーナー頭取やグループ会社の社長(子ども)、政府や他銀行の権謀術数の話なのかな~

でも序盤だし、タイトルが『華麗なる一族』とあるくらいだから一族の栄枯盛衰のうち『栄』が今巻では主なのかな~

とか思いながら文庫を紐解いたけれど、

いきなり不穏な空気が漂っている・・・

愛人と妻を日替わりで席替えするってなんやねん・・・単行本が1973年だから約40年前ということを考えてもこれはヤバいんじゃないの?

とか思いながら読みだす(笑)

(実際、作中でも、銀行の頭取としてはバレたらヤバい的な描写はある)

 

一族だけでなく、関連人物や銀行員の実際等圧倒的描写

とはいえ、華麗なる一族だけあって、その一族の豪奢な生活ぶり(ある意味では浮世離れぶり)や、閨閥による地位の確立、大蔵省(現財務省)のパワー等、取材を綿密に行い小説を書くという山崎豊子だけあって、さすがの描写力である。

また、成績向上のため現場の銀行員たちの悲痛なまでの営業努力は、方法等は違えど現在にも通じるものはあるし、仕事で昔の銀行の話を聞いていたときと一致することも多々あって面白かった。

 

長男に冷たく当たる頭取の描写が終わり次巻へ

長男の鉄平が、自己が経営する会社の社運を賭けた製鉄事業の融資をお願いしてくるが、主力銀行&息子であるにも関わらずかなり冷たい対応をする父親(兼頭取)

それっぽい理屈をつけてはいるが、長男の出生への疑念が尾を引いている様子。

鉄平は代わりに留学時代の先輩が頭取をしている銀行に融資してもらうことになるけれど、このあたりなにか伏線になってるのだろうか。

 

この小説の凄いのは、冒頭からある不穏な感覚が、上巻通じてずーっとあるんだけど小説として成立し、先の展開がまだまだ読めないところにあると思う。

中・下巻と連続して読みたいところだけど、入院中に読むには重すぎる(笑)ので、ちょいちょい購入し、続巻を読んでいこうと思います✨

 

67冊目『男どき女どき』向田邦子

個人的評価★★★★☆

 

 

 歩き出した列の先頭に、大きく肩を波打たせて必死についてゆくIの姿がありました。Iの母親は、校門のところで見送る父兄たちから、一人離れて見送っていました。

 私は、愛という字を見ていると、なぜかこの時のねずみ色の汚れた風呂敷とポカポカとあたたかいゆでたまごのぬく味と、いつまでも見送っていた母親の姿を思い出してしまうのです。

                            『ゆでたまご』P128

 

XのFFさんの投稿をみて面白そうだな~と思って購入。

向田邦子は名前は知ってたけど作品読んだことなかった勢である!

 

前半6篇は短編小説みたいな感じ。

後半19篇はエッセイ。短編小説も良かったけれど、エッセイが向田邦子の本領と言えるような威力を持っている本。

 

本業は売れっ子のテレビ番組の脚本家で、昔のドラマ特集とか見たことあるなら聞いたことあるTV番組が多々ある(寺内貫太郎一家とか)

しかし、この時代(幼少から成年までに戦争を体験し、戦後花開いた世代)の作家さんだからなのか、向田邦子が特殊なのか分からないけれど、

作品は情緒的な流れではあるんだけども、一貫して底の方に透徹した人間観察のようなものが感じられるのがゾクゾクして面白い✨

 

個人的には、短編は『ビリケン』と『三角波』がお気に入り。

どちらも作品をある意味ではひっくりかえす破調がとても小気味良い。

エッセイは断トツで『ゆでたまご』が良かった。

何回か読み直したけど、読むたびに泣いてしまうので良くない(笑)

 

というわけで、普段全く読まないジャンルに手を出してみたら、思いの外素晴らしい作品に出会えて満足でした✨

 

66冊目『モフモフはなぜ可愛いのか』小林朋道

 

 

個人的評価 判定不能

(モフモフの可愛さを語る本だと思って中身確認せずに買ったので・・・)

成長の一つのパターンは、自ら(ホモサピエンス)に関して、新しい知識を得、思考し、ベターな選択をすることになる、そういうことだろう。だったら・・・・・本書を読むことは、成長につながると思うよ。 P 215

何も考えず、中身も確認せず表紙の猫とタイトルに惹かれて勢いで購入した本

モフモフの可愛さについて語り倒す本かとおもったら、しっかりとした動物行動学に基づく人間の行動を説明する本だった。

だって表紙の帯が猫だったら可愛くて買ってしまうじゃないか・・・!!!

 

内容は、著者がX(旧Twitter)上で、みんなから『なぜだろう?』と思う疑問を集めてそれに対して回答していく感じ。

1 親しい友人と会った時、とび跳ねたりするのはなぜか?

2 ヒトはなぜ『怖いもの』をみたがるのか?

などの全13項目の質問と回答の中に表題の『モフモフはなぜ可愛いのか?』もある。

 

読み始めてから、だまされた!と思ったが(勝手に騙されたのである)、読んでいくとなるほどなあという部分も多くて興味深い。

 

最近のSNS上のやり取りの傾向(意図的に自己に有利な状況を作るために一方的な視点から決めつけた発言等を行う、情報の検証を行わないなど)を踏まえたうえで、

著者の回答は仮説(ただし、かなり優れた仮説)であり、今後もっと真実に近い回答が出てくるかもしれないし、読者がより良い回答を考えながら読むことも薦める姿勢は著者の自信が伺えるのと、情報への接し方がきっちりしててとても良いなあという感想を持ちました。

全体的には、利己的遺伝子仮説と、その行動が『生存・生殖に有利になること』が行動の根幹あたりにあるのかなという印象を持ちながら読みました。

利己的遺伝子仮説については、リチャード・ドーキンス(だっけ?)の有名な本あったけど、そちらは読んでないので分かりませんが、本書でも概観は教えてくれています。

 

タイトルから想像した内容ではないけど、読んでいて楽しい本でした✨

 

 

65冊目『猫を処方いたします 2』石田祥

個人的評価★★★★☆

 

 

『死ぬ時は、みんな一人です。出会いの瞬間も選べませんが、それと同じで、死の瞬間は誰にも選べません。人も動物も、全部なんですよ。どうか後悔しないことにしがみつかないでください』

『猫はね、あなたが思っている以上に強いですよ。猫が目を閉じて、眠ってる時、そこに浮かんでるのは楽しいことだけです。たとえその時が一人ぼっちでも、猫は楽しい夢をみながら逝けるだけの強さを持ってるんですよ』

飼い猫が死に近い飼い主に対してのことば。P258抜粋

 

猫を処方いたしますの2作目

言い換えると、メンタルクリニック的なところに行ったと思いきや、薬じゃなくて本物の猫を処方される作品の2作目である。

前作と同様、いろんな問題を抱えた人が、猫をきっかけになんやかんや解決したり方向性が見えてきたりして心が癒される小説。

年上彼氏に別れ話を切り出されそうな女子大生

孫が不登校?の定年後のお爺ちゃん

母親へのわだかまりがある女子大生

保護猫センターで働く男性など

保護猫に関しては、実際にセンターの活動や保護猫の譲渡会の様子、反応等も書かれていて、なるほどなあと思いながら読了。

ただ、前作を読んでいると設定がネタバレ状態になっているので、そこでどう物語を展開していくのかの難しさが見えた巻だなあという印象も持った巻でした。

著者の方も、続編書くの苦労しただろうなあ・・・という。

その意味で、一作目と比べるとやはり少しパワーダウンしてしまった感がちょっとあった。

 

とはいえ、良作であるのは間違いないし、話の引き的に3作目につながるような展開もあるため、次巻でるならまた購入したいなあと思う本でした。

 

64冊目『舟を編む(文庫版)』三浦しをん

やっと退院できた~。入院中はだるくて一日18時間は寝ているのでまだ頭が回らない・・・

入院中そこそこの量読んだので、しばらくは脳内整理兼ねて入院中に読んだ本の感想になる予定。

 

個人的評価★★★☆☆

 

これって10年以上前の作品だけど、なんで書店で平積みされてるんだろ?と思ったらドラマが放送されてるのね。懐かしいなあ。どんな内容の本だったっけ?と思って購入した一冊。ガイアの夜明け(テレビ番組)の残滓を感じる・・・

『辞書は、言葉の海を渡る舟だ。』

『人は、辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原を前にたたずむほかないだろう』

大渡海編纂にあたって。P34~35抜粋

 

全ては辞書編纂のために

出版社の営業部員である馬締光也が、大渡海という新しい辞書を編纂する辞書編集部に引き抜かれ物語は始まる。

馬締は、明らかに営業部員としては不適格(というか会社員に向きにくい)なのだけれど、知識の幅、整理整頓や性格の気質などが辞書編纂に向いているとされ引き抜かれる。

辞書編纂は、実はかなり専門的(プロフェッショナル)な素質を要するものであり、まさしく適材適所といった人材抜擢がされるのである。

それもこれも、すべては大渡海完成のため!ここから完成までに10年以上にわたる物語が始まるのであります。

プロフェッショナル(あるいは情熱を持った仕事)の美しさ

馬締は、私生活でも数部屋を本で埋め尽くすようなある意味読書狂に近い感覚があるうえ、言葉の細やかな違いや変化に気が付き、収集していく辞書編纂向きの性質を持っている。

そのうえ、世間的な意味での要領があまり良くなく、うそや冗談を言わない(言えない)性格で黙々と仕事に励んでいく。

他の、辞書編纂部員や、協力者である元大学教授も同じような気質を持った人達が多く、まさしくプロフェッショナル的に仕事をしていくのである。

辞書編纂部員で唯一、馬締の先輩は要領が良く、営業や企画広報向きの性格をしていて、仕事に熱量を持てない(100%以上の熱量をもって仕事をするのは難しい)自分に悩んだりするが、自己の異動と併せて折り合いをつけていったりしている。

プロフェッショナル的な働き方については、やはり熱中して物事に真剣に取り組む美しさはあると思うし、そういったものはとても上手く描写されていて、完成までのハプニング等と併せて楽しく読める。

恋愛要素もあるけれど

恋愛要素も作中にはあるけれど、これは恋愛メインというよりは、主人公たちの時間(ライフステージ)の変化と変わらず存在する辞書の編纂という事象を対比させるために挿入している感があって、個人的にはあってもなくても良い描写だった(これは、馬締が引き抜かれてから辞書編纂部に新しい人員が配置される話も同じ)

プロフェッショナル礼賛的思考の残滓と危険性

辞書編纂は研究職や学者、文筆家、自営業者や、いわゆる専門職等と同じく、プロフェッショナル的な領域であり、その働き方や仕事への情熱は素晴らしいものがある。

けれども、それはある程度特殊な領域であるから許容されていることなのでもあり、(本書にはそのような意図はないが)この働き方が普通の仕事にまで敷衍して考えるとブラック労働(やりがい搾取)を生み出す素因となり、危ないんじゃないかなあと思った次第。

たとえば、最後の方に、辞書に抜けが見つかり総点検を行うが、バイトを含めて休日返上泊込みで1カ月近く点検作業を行う(もちろん、残業代の説明とか労働時間との関係の説明はない。)ということは、情熱的に仕事を行うに当たっては美談だけれども、それを美談として物語ってしまうのは難しいところがある。

丁度、本書の単行本が出版された当時(2011年頃)は、テレビ番組であればガイアの夜明けが終わり、後継のプロフェッショナルが放送され、いわゆるブラック企業(やりがい搾取)が沢山あった時代だったように思う。

そんな中で、上記みたいな価値観は(僕含めて)割と普通の感覚だったので、当時は違和感持たなかったが、現在になって改めて読むと、出版延期するとか人員増やすとか色々やりようあったんじゃねえかなあとか思いながら読んでしまうのでありました。その意味で、★3で(笑)