ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

73冊目『神を見た犬』ブッツァーティ

動物をテーマに購入した本だけど、かなり幻想文学よりで予想外に面白い短編集だった。

 

個人的評価★★★★★

 

看護師が出てゆくと、彼は15分ほど黙りこくっていた。たとえ事務的な手違いからにしろ、六つもの階が、六つものおぞましい障壁の重みが、コルテの頭上に容赦なくのしかかっている。この奈落の深淵から這い上がるには、いったい何年ーまさしく年単位で考える必要があったーいったい何年かかることだろう。『七階』より

 

概要

20世紀のイタリアの作家で、『幻想文学の鬼才』と称される(らしい)ディーノ・ブッツァーティの短編集

多作な作家だったらしく、色々な短編集から訳者がテーマを持って選別し、天地創造~この世の終わりまで全22編が収録されている。

一応、短編は年代順的な感じで並んでいるので、まさしく世界の始まりから終わりまでを作者の世界観に沿って読める短編集という印象です。

 

著者は1906年~1972年まで生きた方であり、やはり2度の世界大戦を経験した世代特有のペシミスティックな感覚と、人間や政治へのアイロニーが根底にあって読んでいて考えさせられることもできるし、物語としても面白いという中々素晴らしい作家だなあ~と思いながら読んでました。

日本でも人気らしいけど、寡聞にして知らず、良い作品と出会えて満足な一冊。

 

個人的に特に好きなのは『1980年の教訓』

地上の争いが絶えないことに愛想をつかした神様が、人間どもに戒めの教訓を与える話。

教訓というが、内容は、その時代の権力者が権力を持ってる順に死亡していくというもの。

最初にソ連の最高指導者が死亡し、自由主義陣営が安堵していたところ今度はアメリカ大統領が死亡する。という風に一週間毎にどんどん偉い人が死んでいくので、権力者は自分の地位を降り、弱者であることをアピールし、世界も平和に向かっていくという話でした。

 

冒頭引用した『七階』は、医者批判も含まれているらしいけど、病気で入退院を繰り返している身からするともはやホラーである(笑

なので入院中とかには読むのはおススメしないかな!?という感じでしたw

 

71・72冊目『古代日本の超技術 新装改訂版』・『古代世界の超技術 改訂新版』志村忠夫

個人的評価★★★★☆

 

 

 

月刊ムー的な本かなあと思って、例によって中身等は一切確認しないで勢いで購入した書籍。

古代日本の超技術と古代世界の超技術が一緒に並んでいたので、まとめて購入→読了しました。

 

著者は、工学博士でノースカロライナ州立大学終身教授。

応用物理学会会員でもあり、半導体結晶の研究に従事していたらしい。

なので、冒頭期待していたような月刊ムー的な本ではなく、むしろ、古代遺跡等を歴史学者や考古学者的な視点ではなく、理系的な視点からみて考察しているため理屈として頷ける記述も多く面白い。

 

たしかに、遺跡とか歴史的建造物とかってどうしても文系側の視点からの考察や検証に偏りがちな印象はあるよね。

文系の身としては、文系理系の優劣の問題ではなく、物事を見るときの視点の違いがある場合があって、歴史的建造物や遺跡・遺構など物理的に存在しているものについては双方からの視点があった方がより良いんじゃないかっていう感じで読んでいました。

 

古代日本の超技術では、三内丸山遺跡前方後円墳、古代瓦やさびないクギ、五重の塔ほか全部で7つのテーマで記述

古代世界の超技術では『巨石文明』に視点を当てて、ストーンヘンジやピラミッド、古代ギリシャ・ローマ、メソアメリカ・アンデス、古代アジアをテーマに5編載ってます。

古代世界の超技術の方は、半分筆者の趣味(世界遺産巡り)の記述の要素も多い気がするけど、それはそれで世界遺産探訪記みたいな感じで読んだら良いんじゃないかな(笑

結構面白くて、影響されて世界遺産検定のテキストを購入しました(笑

 

 

番外編『フラジャイル(漫画)にユーイング肉腫が出てたので読んだ』※希少癌理解促進のため。治療記録ブログと同じ内容

治療記録ブログ(https://ursusvirtus3.hatenablog.com/に載せた記事だけど、希少がんへの理解促進兼ねてこっちにも。

フラジャイルという漫画自体は面白いのでおススメです。

 

本屋さんフラフラしてたら、漫画『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』の23~25巻がJS1という作中に出てくるアジェバンド薬品の治験の話で、ユーイング肉腫の患者がその治験に申込み・・・

という話だったので購入して読んでみた次第。

漫画自体は面白い✨

前提として、この漫画は病理医を主人公として様々な病気の人達や、病院内部や製薬会社などを含めた群像劇といった感じの漫画なので、特定の病気に焦点を当てる感じの漫画ではないです。

ただ、話を展開していく中で、患者や関わる家族・医師・看護師などの状況も描かれていて読んでいて面白い漫画です。

面白いんだけど、がんに罹患したことあると患者の心情の動きが分かりすぎてしんどい時もあるので、若干敬遠していた漫画でもある(笑)

 

購入した巻では、二人のユーイング肉腫患者(友人関係)が治験に申込み、片方は治験薬が無い群、片方は治験薬適用群で治療を行っていく感じです。

主体は、治験の承認が進まないところでの医者や製薬会社の動きとかなんですが、上記のとおりの漫画なので、患者の様子なども結構載ってます。

 

アジェバンドとは?

作中の説明だと、他の薬と一緒に投与してその効果を高めるための物質で、2011年のノーベル医学生理学賞を受賞した樹状細胞の発見んが起爆剤となり、どんどん新しいアジェバンドが誕生している。らしい。

作中では、アミノ製薬という会社がJS1という画期的な薬を開発し、治験中とのこと

がんの場合だと免疫アジェバンドになるのかな?

参考:ファルマシア・53巻・1号・20頁 (jst.go.jp)

 

ユーイング肉腫患者として気になった点

肺転移ありでステージ3ってあるんか?

二人の患者はどちらも腎発生ユーイング肉腫で、

五味(19歳)は肺転移ありステージ3(5年生存率20%)

門川(25歳)は転移なしステージ2(5年生存率70%)と紹介されているけど、

ユーイング肉腫とかの肉腫って、限局性か転移性かで判断されて、ステージ分類でいうと転移あると問答無用でステージ4のイメージだったんだけど

 

 悪性骨腫瘍は、組織学的悪性度によりStage I (低悪性度)とStage II以上(高悪性度)に分けられ、次にT因子である「腫瘍の大きさ(T1:8 cm以下、T2:8 cmを超える、T3: 原発病巣で不連続な腫瘍)」により病期が決定されます(Stage IIA:T1、Stage IIB:T2、Stage III:T3)。悪性骨腫瘍ではリンパ節転移は稀であるため、リンパ節転移と遠隔臓器転移は組織学的悪性度によらずStage IVとなります。ただし、肺のみの転移よりも、所属リンパ節転移や肺外転移(骨など)を有する場合の予後が悪いため、肺のみの転移をStage IVA、所属リンパ節転移や肺外転移を伴う場合をStage IVBと分けています。

日本がん・生殖医療学会 | 骨軟部腫瘍 (j-sfp.org)

肉腫の適切な診断とステージ別治療 – がんプラス (qlife.jp)

でも医者の監修とか入ってるだろうしなあと疑問に。

 

予後(生存率)の数字はおそらくJESS(日本ユーイング肉腫研究グループ)から

治療・予後 | JESS - 全国の約50の研究施設が参加するユーイング肉腫研究グループ (jess-jccg.jp)

けど、このHP2021年から更新されてない・・・

 

副作用が重い方が効果が高いという誤解を招きやすい描写

抗がん剤治療が始まるなか、五味は副作用が強く出て苦しんでいるけれど、門川は副作用が軽く、自分には抗がん剤が効いていないのではないかと不安になる。

そして、実際、五味はJS1対象群で抗がん剤が奏効し、腫瘍が縮小していく一方、門川は4クール目後の検査で増悪・転移が見つかる。

物語の後半で門川もJS1を使える治験を行い、違う抗がん剤治療を行うがそのときは副作用が強く出て苦しんでいる。

漫画的な描写のためかもしれないけれど、これだと副作用が重い=効いているという誤解や、副作用が軽い患者への不安感を起こすんじゃないかなあと思った次第

基本的には、副作用の程度と効果は別物と考えて良いのではないかなあと。

副作用があまりないのですが、抗がん剤は効いているのでしょうか? | ヨミドクター(読売新聞) (yomiuri.co.jp)

 

転移後のVAIA療法+放射線て?

先日、転移後の治療法調べていて記事にしたけれど、漫画中で言及されていたVAIA療法は知らなかったので何かと思って調べた次第。

調べてみると、ヨーロッパでは限局性ユーイング肉腫への標準治療の一つっぽく、小児がん診療ガイドライン2016に転移時の治療として記載されているみたい。

(太字と下線はブログ主)

現時点において転移例に対して高い有効性が期待できる化学療法は存在しない。欧米
の臨床研究において,ビンクリスチン(VCR)+ドキソルビシン(DXR)+シクロホス
ファミド(CPA)による VDC 療法とイホスファミド(IFM)+エトポシド(ETP)に
よる IE 療法の交替療法,もしくは VCR+アクチノマイシン(ACD)+IFM+DXR に
よる VAIA 療法に外科療法,放射線治療を組み合わせた集学的治療を行うと一時的に
寛解,もしくは部分寛解に至るが,全生存率(OS)は 20%前後と不良である1, 2)。造血
細胞移植併用大量化学療法が行われているが,治療成績が改善したという明らかなエビ
デンスは得られていない.転移例に対する自家造血細胞移植(autologus stem cell 
transplantation:ASCT)を併用した大量化学療法の有効性について検討した

小児がん診療ガイドライン20168章 ユーイング肉腫ファミリー腫瘍 (jspho.org)

 

先日まとめた記事の元論文は2022年ベースだけど載ってなかったように思うけどもう一度読んでみようかな

 

ursusvirtus3.hatenablog.com

ほか、なんか治療の時系列が良く分からなかったり、抗がん剤治療のみで手術や放射線やってなくね?など色々疑問もあったけれどそのあたりはまあ漫画の展開的に描かなかったんだろうと自己納得させた(笑

人道的見地から実施される治験(EAP)

治験には、Expanded Access Programというものがあるらしい。

これは知らなかったので知識として持っておくと良いかもしれない

有効な治療法が存在しない場合に、未承認薬の治験の条件を満たしていなくても、その治験が効果が大きいと認められる等一定の条件を満たす場合に治験をできる制度らしい。

これを使って、門川は作中で治験に参加できた(けど、最終的には奏功しなかったような描写があり哀しい)

生命に重大な影響がある疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患の治療のため、未承認薬、未承認機器及び未承認再生医療等製品(以下、「未承認薬等」という。)を臨床使用するに当たっては、当該未承認薬等の使用によるリスクと期待される治療上のベネフィットのバランスを図りつつ、当該医薬品等の開発に支障を生じないことを前提として、これらの患者からのアクセスを確保するため、治験の参加基準に満たない患者に対して人道的見地から未承認薬等を提供する制度が導入されています(2016年(平成28年)1月22日付薬生審査発0122第7号、2016年(平成28年)7月21日付薬生機審発0721第1号)。
 本制度は、上記の疾患を対象として、患者が享受できると期待されるベネフィットの蓋然性が比較的高いと考えられる国内開発の最終段階である治験(注)の実施後あるいは実施中(組入れ終了後)の治験薬、治験機器及び治験製品を、治験の枠組みのもとで提供するものです。

(注)通常、効能・効果及び用法・用量が一連の開発を通じて設定された後に実施される有効性及び安全性の検証を目的とした治験や、当該治験の結果をまとめた後、その結果をもって承認申請を予定している治験であり、これを「主たる治験」と呼びます。人道的見地から実施される治験について | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)

厚労省作成の制度に関する参考資料

000209680.pdf (pmda.go.jp)

 

とまあ、いろいろ適当に感想書き連ねたけど、EAP知れたのが収穫かな?

今治療中の人が読むのは結構辛くなるところもあるのでおススメするかは迷うところ(笑)

べつにがんじゃない人は、そもそも面白い漫画だし、希少ガンとかへの理解促進にもなるので読んでみて欲しいかも

 

 

70冊目『魔女狩りのヨーロッパ史』池上俊一

個人的評価★★★★☆

 

 

魔女狩りについての新書。

岩波新書には『魔女狩り』(森島恒雄著)という名著というか長年の定番みたいな書籍があって、昔読んで面白かった覚えがあるんだけれど、あれはもう出版から50年以上経っているらしい!

 

 

50年以上前というと1970年代。

『はじめに』での説明によると、ヨーロッパ各国で魔女狩りについての古文書研究が活発化しだしたはその頃からで、特にドイツではナチスドイツが魔女研究していたことへの軛から1980年代になって活発になっていったという事情がある模様。

つまり、森島恒雄版魔女狩りから年数も経ち、当時からアップデートされた情報も多々あるのでそれらの研究を基にして魔女狩りについて新たに光を当てた本といえるのかもしれない。

読んでいくと、一般的な魔女狩りに対するイメージが刷新される記述も多く、森島版は魔女狩りの中の異端審問の描写がとても印象に残っているが、本書は魔女狩りの広がり方や事例を通した原因研究、ヨーロッパ史の変遷と併せた分析等が印象に残り、これはこれで面白かった。

・魔女の平均年齢は50歳以上

魔女狩りで処刑された人数等について、その後の研究等で処刑にはならなかった事例も多数あることなどがわかる(だからと言って異端審問を肯定するわけではない)

魔女狩り=暗黒の中世のイメージが強いけれど、必ずしもそういうわけではない

サバト観念が広がり、魔女が異端審問所でシステマチックに裁かれるようになるのは15世紀の30~50年代になってからであり、魔女狩りの最盛期は16世紀後半から17世紀半ばである。

主要な悪魔学書が出版されるのも16世紀からである。だから魔女狩りが中世の出来事だというのは間違いで、正確には近世ないし近代初頭の出来事なのだ

 

などなど、新たな発見も多い本であり、魔女狩りに興味があるならおススメです。

 

 

 

69冊目『冷静と情熱のあいだ Rosso』江國香織

個人的評価★★★☆☆(若い頃はもっと面白く感じてた気が)

微妙にネタバレあり。

 

対になる作品として、『冷静と情熱のあいだ Blu』(辻仁成)がある。

セットで読むことで完成するという面白い形式の小説

(女性側の)30歳の誕生日にフィレンツェのドゥウォモで逢おうぜ!っていう、男側から発せられたある意味ロマンチック的な言葉が鍵になっているよ!

何もしない、何にもならない毎日。それのどこがいけない?マーヴならきっとそう言うだろう。怠惰、無為。それのどこがいけない? P114 

ものすごく大雑把なあらすじ

Rosso版は女性側の物語。アンティークのジュエリーショップに努めるアオイは、穏やかで金持ちなアメリカ人の恋人マーヴと一緒に暮らしている。

静かで穏やかな日々を過ごしているが、マーヴの優しさに甘え、次のステージ(結婚とか)へは踏み出さず、何か心に穴が空いているような生活を送っている。

これは、大体が学生時代に情熱的に愛し合った男側主人公順正への未練とも言えない感情が根底にあるんだけど、ある日学生時代の共通の友人が訪ねてきて物語は動き出す!

映画と併せてめっちゃ流行った

丁度高校生くらいの時に映画が上映されたけれど、その上映前の段階で学校(のカップル間で)めっちゃ流行った。

赤と青をそれぞれ読んで、読み終わったら交換して読んでそれから映画に行くみたいな。

局地的流行なのか他の地域でも流行ったのかはわからない(笑)

映画も結構繁盛したイメージがあり、主題歌を歌ってたエンヤのCDも売れ、年末の歌番組に出てたし、紅白歌合戦も出てなかったっけ?

映画は設定は同じだけれど内容は全く別物として観た方が良い。脚本も新たに書かれていたらしいし、映画だといきなり主人公たちが再開したりする(小説だとラスト)。

ただ、フィレンツェやミラノなど、イタリアの映像は綺麗だし、小説読むときにイメージしやすくなるので、映画観てから小説読んでも楽しいかも✨

たぶん20代以下で読むのと30代以降に読むので感じ方変わる

Rossoのほうは、基本的に穏やかで代わり映えのない生活が繰り返され、そこに徐々に変化の要素が現れてきて、、、

という感じでかなりゆっくり進んでいき、終盤にかけて一気に展開が動くような話。

10代20代の時はもっと面白く読んだ覚えがあるんだけど、今になって読むと、主人公の無自覚な幼さと甘えに若干イラついてしまって(どちらかというとマーヴ側に感情移入してしまって)読んでいくような感じになってしまった。

冒頭の方にアオイが読んでる小説の印象に

『みんなが少しづつ不幸になっていく物語』みたいな感じの一文があったんだけれど、まさしくこの小説自体がそんな印象を持つ感じになってしまった。

まあ、結局は静かな生活(冷静)を捨てて順正との動きのある生活(情熱)にいくあいだの群像描写的な感じなのだろうけど、冷静側の人はたまったもんじゃないなあと(笑)

 

映画も併せてAmazonプライムで見たけど、映像懐かしいな~(竹野内豊若いな~)とかエンヤ懐かしいな~とか懐古的な感じでみてしまった(笑)

若い人で、恋人いるなら交換読みして映画観てみるとより面白いかもしれない✨(過去の局地的流行の再現。笑)

少し落ち着いたらBluの方も再読したい。