ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

105冊目『99%のためのマルクス入門(再読)』田上孝一

マルクス入門本読み漁り5冊目

個人的評価★★★★★

 

 

一回目は、入院中~退院後にメモなどは特に取らず読了

面白かったのは覚えているが内容は正直概要くらいしか覚えていなかったけど、社会主義関連がマイブームになったきっかけの一冊。

また、ひょんなことから、著者の方のマルクスの原典読解のオンライン講座を受講する機会に恵まれたので、改めて(ちゃんとメモとりながら再読)

 

大まかな感想からいうと、一般的な意味での入門本とは違っていて、思想系の入門本としてはわりと珍しい形式のものなんではないかと思う本

 

というのも、叙述方法が一般的な方法であるマルクスの生い立ちや、考え方の変遷、理論の一般的解説をといった叙述方式ではなく、

マルクスの理論の核心と、現代におけるマルクス理解に基づく社会主義共産主義の有用性の解説・展望を示そうとしている』ということに加えて

疎外論という体系化された視点を中心に論じていっている』というような感じ(と僕は捉えている)からである。

要するに、全体的に理論の概説等を行うのではなく、体系化された解釈論の呈示とそれをもとにマルクスの理論と、マルクスの示すあるべき社会を提示している本というのかな

その意味では物質代謝論を元に解説してるとする斎藤幸平先生の入門本や、関係論を元に論じている廣松渉先生の「今こそマルクスを読み返す」とかに近い点があるけれども、それらの本の解釈が体系化されている(全体的な軸がある)といえるかどうかは、現時点では僕個人としては疑問符がつくところという感じ。

 

なので、この本をしっかり理解した後に類書や原典を読んでいくと考えるときの解釈のベース(疎外論)があるので理解は深まるし、理解しやすいのかなと思う。

 

思想系の入門書だと、①通説的理解の解説を丁寧にしてくれるものや②著者の視点や解釈の軸は呈示されているようなんだけど、『あなたが私の思考を察してね』的なやたら難解な説明のものが多いという印象があって、とっつきにくいor反対に異様に分かりやすい(うさんくさい)かになりがちというイメージがあるんよね

その意味では、本書は簡単なわけではないんだけど、その世界への興味付けと導入という意味で優れているのではないかと思う。

 

さて、じゃあどんなことが書いてあるの?ということを大雑把に書いていくと、

序論でも説明されているけれども、本書は基本的には、マルクスを古典として読むこと』

つまり、現在の地点から、現代の価値観に適合する形に読み替えて、(現在)現代においてその理論が有効かどうか、活かせるかどうかという観点で読むこと

という視点をもとに叙述されている。

これは、大切なのは理論の適切さであり、『マルクス』が正しいかどうかではないという視点といえる。

 

第1章・第2章では、ブルシットジョブやワーキングプアというテーマを通じてマルクスの理論的核心は疎外論であるとし、その疎外論について結構分かりやすく解説してくれている。

 

ものすごく大雑把な記述をすると、資本主義社会は主客が転倒した様式の社会で、労働生産物(人間の本質の発現)が、労働者自身(人間)から離れて疎遠になることに起因した事態が疎外(された労働・疎外された生産手段)→資本による支配

であり、外されていない人間関係で形成された社会が共産主義社会(ゲノッセンシャフト(協同組合みたいな感じ)なアソシエーション(水平的関係性)

であり、それを目指しましょうねというもの。

自分で作りだしたものに支配されちゃって人間性が害されてるのが資本主義社会だよ的な

 

このあたり、僕では上手く説明できず意味不明な記述になっていると思うけれども、詳細は本書を読むと腑に落ちるものなので、一読することおススメです

社会主義共産主義へのイメージは確実に変わると思う。

 

第3章・第4章は、現実社会主義ソ連とか)と、マルクスの理論上の社会主義の違いを、マルクスのいう社会主義共産主義について解説してくれている。

僕は元々マルクス主義については、高校の教科書レベルくらいの知識しかなく、

ソ連崩壊で共産主義とか終わったっしょ!それに、私的所有認めないんだからやばげな社会だよね』

という感じの理解だったのであるけれど、それは実際はマルクス自身において否定されている考え方(粗野な共産主義であって、現実社会で発現した社会主義といわれる現象と、マルクスの言う社会主義共産主義は全然別物だよということが論じられている。

安易に『生産手段の私的所有の有無がメルクマール』と考えがちなんだけども実際は違うよと。

私的所有の克服は必要なんだけども、それはその社会の労働の疎外的な性格が除去されてなければならず、現実世界の社会主義国家はそうじゃないよという感じ。

 

最後、第5章は、第4章でも一部記述されているけれど、じゃあ現代においてのマルクスの上記理想の社会主義共産主義がどんな有効性あるの?とが、環境問題への考え方などを含めて記述されている。

 

再度書くけれども、読むと社会主義共産主義)へのイメージは間違いなく変わるし、社会の在り方に興味があるならマルクスへの興味が湧いてくる良書と言える本でした。