ウルソの読書記録

素人が暇潰しに読んだ本などの感想と紹介を書いていくブログです

33冊目「99%のためのマルクス入門」田上孝一

 

 

 

個人的評価★★★★★

1.ざっくり感想

以前読んだ「これからの社会主義入門」の著者によるマルクス入門本。

22冊目「これからの社会主義入門 環境の世紀における批判的マルクス主義」田上孝一 - ウルソの読書記録

とても分かりやすく、面白かった。

「これからの社会主義入門」読んでなんとなくモヤモヤしてたところがスッキリした!

共産主義とは、ゲノッセンシャフトリヒなアソシエーションである」(P41)

何言ってんのか良く分からんと思うけど、これらもクリアに理解できるようになる本。

 

先にこの本読んでから社会主義入門読めば良かったな~

と思いつつ、著者を知ったのがたまたま本屋さんで社会主義入門の本見かけてだからしゃあないよね。

 

とはいえ、入門とはなっているけど、ちゃんとマルクスについて学ぶことの入門の本なことに注意が必要。民法入門とかみたいに、その世界への入門と捉えてきちんと考えて読む必要はある。

最近だと「ブッダという男」(清水俊史著)とかもそうだけど、こういう、ちゃんと学問的入門にもなってる一般書というか概説書って良いよね。

入門書とか解説書によくある、「生まれたときからの流れとか書いて、思想的背景検討したうえで思考の変遷とか追っていく方式」の解説書も悪くないんだけど、その思想家とかの考えのポイントをテーマ毎に解説して浮き上がらせていく方式の方が、もっと学んでいく興味は湧くと思うのです。

 

2.もっと売れて良いのでは?

問題意識や展開は、先日読んだ「人新世の資本論」に似たところがある。なので人新世が50万部とか売れるなら、本書ももっと売れて話題になっても良いんじゃないかと思うが、本の売れ方とは難しいものである。

28冊目「人新世の「資本論」」斎藤幸平 - ウルソの読書記録

個人的には、あっちは、新書という形態なので、分かりやすさ優先でわりと断定的で解答を与えてくる本(なので、極端に言えば考えず読める)なのに対して、こっちはきちんと思考過程を追って考えて理解していく本という違いがあるのかなと思う。

もちろん、人新世の方も学問的には深堀りする余地や深みはたくさんあるのだと思うのだけれど、あんまり知識ない段階(なので新書とかから入ったりする)においてそこまで調べる(考える)読者は少ないだろうし、読んでいて読者がそれで満足してなんか賢くなった気になる自己啓発本風味がある気がするのである。

問題意識の共有が主で、マルクスを学ぶかどうかは従というかなんというか。

(ベストセラーになってる新書には、読者が考えなくて良いものも多いという印象がある)

 

 

3.内容のおおまかな個人的理解

前置きが長くなったけれど、

本書は、環境保護時代に、社会主義マルクス主義)が見直されてきているところに、疎外論をベースにマルクスをきちんと古典として読むことによって社会主義の現代性を見直す本となっている。

この、マルクスを古典として読むという視点がとても大切で、序論で著者も再三言葉を変えながら理解を促してくれている。

それによって、資本論をバイブル化したり、マルクスを神格化してマルクスが解決の処方箋になるみたいな考え方とは一線を画している。

マルクス良く知らない一般人からすると、やはりマルクス主義者=マルクスが宗教的になってるイメージあるのはたしか)

 

「大切なことは理論の適切さであって、マルクスが正しいかどうかではない」(P30)

 

アリストテレス倫理学の、時代背景による制約や意図(女性は学ぶ必要がない、奴隷制が前提など)を著述したうえで

「もし、アリストテレス倫理学アリストテレス本人が意図した目的でしか読めないとしたら、アリストテレスの著作は今では全く読む価値のないゴミクズでしかない

しかし今や誰もアリストテレスの著作を、アリストテレス本人の意図通りに読みなどしない。我々はアリストテレスの著作を、普通の倫理学の著作として読むのである。」(P26)

この辺りは読んでて笑った(笑)

 

そのうえで、一般的には、ソ連とかの共産主義国家=マルクス主義社会主義であり、ソ連の崩壊がマルクス主義社会主義の崩壊と同義になっているような理解があるが、

そうではなく、ソ連等の共産主義国家は社会主義マルクス主義とは別異のもの(であることを論証している。

このあたりは論証がとても鮮やかで、理屈に沿った展開になっているので理解しやすいし、分かりやすい(本質的に理解しやすい)

 

その後、環境問題や資本主義後の社会(マルクスの想定する社会像)などについて著述していくが、このあたりは読んでみて個々人がどう感じるか、前章までを理解のうえで読んでみると良いのかなと思う。(個人的には考えへの共感と妥当性はあると思う)

「ザスリーチへの手紙」についての解説と、常識的に考えろよ的な論述は、まあたしかにそうだよねと思わず笑ってしまった(笑

 

最後に、マルクスの原典(資本論とかの原著)の読み方(翻訳だとどの文庫とか読むと良いかとか、注意点とか)を指南してくれるおまけの章があるのがありがたい。

 

理解したうえで、同意するかは別だとしても、マルクスへのイメージとかが転換されるのは(「これからの社会主義入門」もそうだけれど)間違いないと思う。

 

著者の他の本も読む予定